48話 オーレオマイシンとオーラミン
オレアンドマイシン(47話)のついでに、”マイシン”ずくしといってみましょう。まずはオーレオマイシンです。
Aureomaycinは、1945年アメリカのB.M.Duggarが、レダリー研究所の土壌中の放線菌の一種Pseudomonas
aureofaciensを培養分離して得た黄金色の結晶性粉末なので、こう名付けられましたが、学名はchlortetracyclineです。わが国でも、1947年梅沢浜夫博士らが、白癬や頑癬のような皮膚病に効くaureothricinを発見し、軟膏として用いられております。ちなみに、aurumはラテン語で”金”のことで、金の化学記号のAuもaurumの頭文字ですね。このaurumのさらに元はヘブライ語のor(光)またはaus(赤)だそうで、現代フランス語では金のことをor(オール)といいます。
かつて”たくあん”などの食品の黄色着色剤として用いられたオーラミンをご存じでしょう。これはアミンの誘導体イミドベンゾフェノンですが、明るい金色の蛍光を発するので、”aurum+amine”でauramineと名付けられたものです。検査室では、このauramineOが抗酸菌のオーラミン・ロダミン染色の際のTruant液の主成分として役立っています。またaurinは赤色染料ですが、pH7.5で深紅色を呈する指示薬としても用いられています。そうそう、今やMRSAで大騒ぎになっているStaphylococcus
aureus(黄色ブドウ球菌)の名前も、その培養集落が淡黄色を呈するからですね。
ところで皆さん、極地で見られる夜明けの美しい金色の曙光をauroraといいますね。ローマ神話にもAuroraという女神が登場しますが、これはギリシア神話のEos(エーオース)のことです。
彼女はバラ色の指をもち、サフラン色の衣をまとった夜明けの女神で、毎朝かならず2頭の馬に曳かれた馬車に乗って天空をかけ上り、門を開くと、金色と赤色の美しい光がさして夜が明けるのです。この女神のことは5話でも書きましたので、あわせてお読みください。
さてこのアウローラは、ある時、軍神アレースの愛を受け入れて、ともに一夜を過ごしましたが、これを見付けた愛の女神アプロディーテーはねたんで、彼女がいつも人間の男を恋するようにしてしまいました。この呪いをかけられたアウローラは、地上の美しい男を見ると、さらって空の東にある自分の館に連れて行き、寝所に入れるのでした。
そのうちのディートーノスは、トロイア王の一族の若者でしたが、彼を深く愛したアウローラはゼウスの大神のもとに行き、恋人が永遠に死なないようにと乞い願いました。この願いは聞き入れられましたが、この時うっかりして、若さも保てるように願わなかったため、彼はしだいに年をとって白髪となり、美しい顔もしわだらけになってきました。さすがのアウローラも、とうとう彼と寝所をともにしなくなり、小さな一室に隠して扉を閉じ、小さな子供のように養育しました。ティートーノスはその中で小さな声を出すだけでしたが、最後にはとうとう蝉になってしまったということです。
このaurumから派生した言葉としてaureate(金色の)、aureole(金色)などがありますが、aureoleは聖画のなかの人物全体、または頭部だけを包む金色の輪光を意味します。これはこの世で悪と闘って勝利を得た栄冠であり、天国では報いとして至福直観(神を目の当たりに見ること)を得ることを示すものなのです。
偉い人のことをよく”後光がさす”といいますが、aureolaがまさにその”後光”なのです。
ついでにギリシア語で”金”はchrysosでしたね。chrysoidine、chrysanthemumなどについては57話で書きました。
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